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高年齢者雇用を推進しよう!法改正のポイントとリスク回避の施策

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執筆者:ドリームサポート社会保険労務士法人 特定社会保険労務士 小平陽子

日本は少子高齢化が世界に類を見ないスピードで進んでおり、総人口も2008年から減少に転じました。15歳~64歳の生産年齢人口は、1995年の8,726万人をピークに、政府の予測では2030年には6,773万人、2060年には4,418万人と、減少の一途をたどる見込みです。
労働力の確保が難しくなることは明らかで、これからは、高年齢になっても働く意欲のある人誰もが働ける世の中を目指して、企業も意識を変えていかなければなりません。

1.2030年問題、2025年問題とは

2030年 人口の3分の1が65歳以上の高齢者に

2030年問題とは、2030年に日本の人口の約3分の1が65歳以上の高齢者になるという超高齢化によって、様々な問題が起こると予測されていることです。また、これに関連して、戦後のベビーブームの1947(昭和22)年~1949(昭和24)年に生まれた「団塊の世代」といわれる人たちが全て75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」にも目を向ける必要があります。

多様な働き方を

従来は、定年退職後は嘱託などに身分変更し、給与が下がる代わりに評価もなく、退職までの数年間を無難に過ごすというのが定番でした。しかし、おりしも新型コロナウイルスの感染拡大によって、働き方への意識は大きく変わりました。短時間正社員など多様な働き方も増え、高年齢になっても働けるうちは最大限働く(働いてもらう)という方向にシフトしていく必要があるでしょう。

2.高年齢者雇用安定法が改正

70歳までの就業機会の確保とは

2021年4月、高年齢者雇用安定法が8年ぶりに改正されました。これまでは65歳までの雇用機会の確保が企業に義務付けられていましたが、今回の改正では、70歳までの就業機会の確保措置が努力義務として追加されました。
ポイントは、「就業機会」の確保であって、必ずしも「雇用」することを求めているのではないという点です。また、70歳までの定年年齢の引き上げを求めるものでもありません。

65歳までは義務、70歳までは努力義務

2013年の法改正により、65歳までの雇用確保措置は、継続雇用制度などの形でほぼ全ての企業に導入されました。今回の改正では、65歳までの雇用確保措置はすでに完了していることを前提に、もう一歩踏み込んで「雇用によらない働き方」に焦点を当てています。

<高年齢者雇用安定法の改正点> ※以下のうちいずれかを実施

65歳までの雇用機会の確保措置【2013年4月改正】
義務 ・65歳までの定年年齢の引き上げ
・希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入
・定年制の廃止
70歳までの就業機会の確保措置【2021年4月改正】
努力義務 ①70歳までの定年年齢の引き上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度の導入(他の事業主によるものを含む)※1
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に以下の社会貢献事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

※1特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む

グループ企業以外への再就職あっせんもOKに

③の継続雇用制度の対象となる事業主は、従来は、自社または特殊関係事業主(子会社、親会社等の関連法人)でなければいけませんでした。しかし、改正後は、それらに加え「他の事業主」によるものを含む、とされました。グループ企業ではない他の関係先企業への再就職をあっせんする制度も認められることになり、定年後の再就職先の選択肢が広がりました。

創業支援措置とは

④と⑤は、「創業支援等措置」として新たに設けられた、雇用によらない働き方です。これらの導入にあたっては、導入に必要な事項を記載した「実行計画」を作成し、過半数労働組合または労働者代表者の同意を得るという手続きが必要です。

④は業務委託またはフリーランスとして、元いた会社と契約を結び業務を請け負うものです。企業を定年退職後に起業(創業)し、その会社と業務委託契約を結ぶこともあります。

⑤の社会貢献活動を行う事業については、a.事業主自らが行う事業、b.事業主が出資等の資金提供をしている事業、の2つが対象です。社会貢献活動の具体的イメージとしては、学校への出前授業、地域企業の工場や展示場のガイド、地域の環境保全活動などですが、無償のボランティアではなく、必ず「有償」(金銭を支払う)でなければいけません。

③から⑤の措置に関しては、対象者を限定するための基準を設けることができます。ただし、その基準には客観性、具体性が求められ、「会社が必要と認めた者に限る」とか、「上司の推薦がある者に限る」といった曖昧なものは、基準が無いに等しいため、認められません。

3.高年齢者の就業について特に配慮すべきこと

高年齢者は労働災害の発生率が高い

働く高齢者が増え、60歳以上の雇用者数は過去10年で1.5倍に増加しました。そんな中、労働災害のうち60歳以上の労働者が占める割合は若年層に比べて相対的に高く(2018年は26%)、また、体力の衰えなどの理由によって、重症化したり、休業が長期化する傾向にあることがわかっています。雇用される高齢者だけでなく、請負契約で就業する高齢者に対しても同様に、労働災害を防止するための職場環境の改善を図る必要があります。

手すりの設置や段差の解消、適度な明るさの照明、濡れた床をすぐに拭き取るなどの小さな注意に加え、職場でのストレッチや体力測定の実施など、やがて高齢化していく他の従業員にとっても安全で働きやすい職場づくりを工夫していくとよいでしょう。

出典: 厚生労働省 エイジフレンドリーガイドライン

万が一の病気や急な退職に備えることも必要

高齢になるほど、思わぬ病気やケガ、家族の状況の急変などによる退職というリスクがあることも、想定しておかなければなりません。
厚生労働省が2020年3月に公表した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称:エイジフレンドリーガイドライン)には、日頃から健康状況や体力をチェックすることや、複数の労働者で業務を分け合う「ワークシェアリング」を行うなど、高齢者の就業における配慮について、具体的なヒントが盛り込まれていて参考になります。

「エイジアクション100」を活用しよう

本ガイドラインの中には「エイジアクション100」と題した高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト100項目が掲載されていますので、利用したいものです。このほか、「人ごみの中、正面から来る人にぶつからず、よけて歩けますか」「片足で立ったまま靴下を履くことができると思いますか」といった、高齢者の身体的特性を評価するための質問票もあり、回答結果がレーダーチャートで見られるようになっています。

ガイドラインに記されたこれらの情報を知っているのといないのとでは、高齢者の就業管理をするうえで大きな違いがあります。是非活用しましょう。

まとめ

生産年齢人口が減り人手不足が深刻化するなか、働き手をどうやって確保していくかが企業にとっての課題です。高齢者の体力や健康面のリスクを補いつつ、技術や経験を若手に継承する必要もあり、高齢従業員と若手社員とのペア就労を進めている企業なども見受けられます。

作業環境の見直しや業務マニュアル作りなど、より生産性を上げるためにできることを工夫し、経験豊富で意欲のある高年齢者のパワーを最大限活かしていきたいものです。
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