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失敗しないインボイス対応【実務編②】

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ITコーディネータ (認定番号 0094392010C) 武内靖志

実務編①では、適格請求書発行事業者登録時の注意点と、基本的なインボイスに記載すべき必須項目についてお話しました。
課税事業者でも適格請求書発行事業者として登録していない事業者はインボイスを発行できない事やインボイス制度が始まる2023年10月1日までに登録番号を取得するには、原則として2023年3月31日までに手続きを行う必要がある事、送られてきた請求書に対して受け取った事業者が追記することはできない事などの注意点についてお話しました。
いずれにしろ、得意先との良好な関係を持続できるように進めていく事が最も大切なことであり、そのために一刻も早く登録申請やシステム化を含めたインボイス発行の準備に着手して頂きたいと思います。
今回は、具体的にやらなければならない事等についてお話させて頂きます。

Chapter 1 準備しなければならない事は山ほどあります

今回の制度変更を聞いて、要するに請求書に登録番号と税率区分別の消費税を印字できるようにすれば良いのでしょう!と軽く考えておられる事業者の経営者の方もたくさんいらっしゃいます。

しかし、自社内だけではなく取引先も関係してくることですので、準備しておかねばならないことは非常に多くあります。

以下に、最低限やらねばならないことを列記します。

繰り返しますが、上記の項目は最低限のことです。2023年10月はまだまだ先のことと考えていては間に合わなくなってしまいます。是非とも危機感を持って取り組んで頂きたいと思います。

準備が完璧でないと自社内で困るだけではなく、取引先にも多大なる迷惑をお掛けすることになってしまいます。

何度も申し上げているように消費税という間接税の対応は、事業者の方にとって売上にも利益にも直接関係しないにもかかわらず、膨大な事務負担のみ強いられる制度です。そのような事の為に自社の事業運営に支障が生じたり、これまで築き上げてきた取引先との信頼関係に亀裂が入るような事は絶対に許されません。

念には念を入れて準備して2023年10月1日を迎えて下さい。

以下、各項目について詳細をお話します。

Chapter 2 自社内でやる事_適格請求書登録について

これまでお話してきた通り、皆様方事業者が現在免税事業者であろうと簡易課税事業者であろうと、今回の制度改正に伴い、課税事業者となって適格請求書発行登録業者になって頂くことを強くお勧め致します。

目先の損得に惑わされずに、長い目で皆様方の事業運営や経営戦略を考えて頂きたいのです。

国は最終消費者が負担した消費税を限りなく100%に近いところまで徴収しようとしているように私には思えてなりません。すなわち、今回の制度改正で終わりではなく、この先例えば簡易課税事業者に適用される課税売上高の上限が5000万円から引き下げられたり、簡易課税制度そのものが見直されたりするかも分かりません。

標準税率が10%よりもっと高くなるとともに、痛税感を和らげる為、軽減税率制度が更に細かくなり、8%と10%だけではなく、3段階・4段階に分かれたりするかも分かりません。(フランスは、標準税率20% 軽減税率は10%・5.5%・2.1%の3段階あり、スウェーデンは、標準税率25% 軽減税率は12%・6%の2段階)

税収を上げる方法として、税率を上げるよりも制度を変えて国民が負担した消費税の徴収率を上げるほうが抵抗が少ないため、この先さらなる制度変更を行って消費税の徴収率を上げてくる課税政策を取ってくるように思えます。そうなってから慌てて対応するよりも、今のうちから国の定める標準的な事業者として事業運営したほうが、制度改正に振り回されずに済みます。

今回のインボイス制度の開始に合わせて、是非とも課税事業者・適格請求書発行登録事業者として登録して頂きたいと思います。従って、上記の表の自社対応の①②はできるだけ早く行って下さい。登録手続きは前回お話したように、書類申込でもe-Taxでも簡単に登録申請ができますので、すぐに取り行って下さい。

Chapter 3 自社内でやる事_取引先(得意先/仕入先/外注先など全て)への通知について

登録が終わり、税務署から登録番号の通知および公表が行われたら、各取引先に案内を出して下さい。

目的は以下の2つです

  1. きちんとしたインボイス対応を行って既に登録済みである事を案内するとともに取引先に安心してもらう
  2. 上記の表の取引先項目の⑨にも関係しますが、自社の登録番号の通知に合わせて、取引先にも登録業者になってもらえるよう暗黙のプレッシャーをかける

要するに、自社の登録番号をお知らせして、取引先に安心感を与えながら、相手のインボイス制度の前向きな取り組みを促進するのです。通知は電話などではなく、メールか郵送による文章送付、もしくはその両方がよろしいでしょう。

以下にその案内サンプルを記載します。

上記のサンプルの意味合いは、青枠で囲った部分を参照してください。

取引先に自社の登録番号を通知するとともに、取引先の登録番号を教えてほしいと通知しています。

【やらねばならない事一覧表】の取引先項目の⑨に示すように、

「御社は適格請求書発行業者登録しますよね」

「登録番号は何番ですか?」

と聞きたいのですが、それだけの為に文章を送ったり、電話を掛けたり、対面で質問するのもちょっと気が引けると思いますので、まずこちらから登録番号の通知を行うとともに、そちらの番号も教えてね、当然登録するよね

と伝えているわけです。そういった意味でも、自社の登録はできるだけ早いほうがよく、税務署から通知が来ればすぐにこういった文章を作成して、取引先と話し合いが始められるように手を打つことが肝要だと思います。

Chapter 4 自社内でやる事_基本的なインボイス様式の決定(納品書/請求書など)などについて

取引先への通知が完了し、話し合いが始まったら、自社内のインボイスをどうするか検討します。

【やらねばならない事一覧表】の④⑤⑥は連携して進めていく事になると思います。

この時に、今一度現在のシステムを見直してください。特に消費税の転嫁方法です。大した意味もないのに伝票単位、請求単位、行単位とバラバラになっていませんでしょうか?

まず、総論編③でお話したように行単位消費税はインボイス制度では認められていませんので、指定伝票含めてこういった転嫁方法はやめて下さい。次に、できるだけシンプルにしたほうが後々チェックなどするときに手間が省けますので、伝票単位にするのか請求単位にするのか基本方針を決めて下さい。

最も簡単な方法は、取引先の中で最大手(一番取引額が多い)の得意先が伝票単位なのか請求単位なのかを見て、基本的に自社はそれに合わせるという方法です。

伝票単位の消費税転嫁なら、総論編③でお話したようにインボイスは納品書となります。

請求単位の消費税転嫁なら、インボイスは請求明細書ということになります。

これを自社の軸として、他の得意先もこれに合わせていくのです。例えば、最大手の得意先が締め日での請求単位での消費税転嫁なら、自社のインボイスは基本的には請求明細書ということにし、他の得意先のうち、伝票単位などそれ以外の転嫁方法を取っている得意先を洗い出します。そして、今回のインボイス制度の開始にあたって、締め日での請求単位消費税に変更してほしいと申し出るのです。全ての得意先がそれでOKということであれば、自社のインボイスは全て請求明細書で統一できとてもシンプルになります。

もし、どうしても締め日の請求単位ではダメで伝票単位にしろという得意先が出てきた場合には“例外的”に採用してその得意先は伝票単位の消費税転嫁にして、納品書をインボイスとするようにします。

このように、できるだけシンプルにしていく事でその後の管理、運用して行く上での手間は大幅に削減できるようになります。ほとんど検討せずに現状のまま移行した場合、後々、この得意先のインボイスは納品書だったっけ?請求書だったっけ?なんて余計な手間暇と神経を使うことになってしまいます。

さらには指定伝票は、今回のインボイス制度開始に伴い、転嫁などの運用方法やフォームそのものも変更されることも想定されますので、取引先や団体に問い合わせて、早めに概要方針を知らせて頂くようにして下さい。

そのあたりが固まったら、すぐに販売管理システムの改修に取り掛かって下さい。

特に現在複数税率対応となっていないシステムを運用されている場合には、是非この機会に複数税率対応システムに変更を行って下さい。今は必要ないから、今のままでいきたいと思われるかもしれませんが、今後は確実に軽減税率制度をもっと活用していこうと国も制度変更してくると思います。軽減税率品目が増える可能性も高くなってくると思います。

また、今は食品関係の商品の取り扱いは無いかもしれませんが、総論編でもお話しましたが、世の中は大きく変動してきています。コロナウィルス感染症がそれにさらに追い打ちを掛け、ビジネスの仕組みや働き方など生活そのものが劇的に変化してきており、その変化は終了しておらず、現在その真っただ中にあります。

従って、今後どのようなビジネス形態で事業を運営していこうか経営者の方は模索しておられる真っ最中だと思います。そういった中、うちのシステムは複数税率には対応していないので、軽減税率対象品目は取り扱えないといったような制約を受けるのは得策とは言えません。

繰り返しになりますが、自社の売上・利益に直接関係ない消費税制度の為に、事業運営のやり方や経営戦略が影響を受けてはならないのです。そういった意味で、今回のインボイス制度の開始に伴うシステム変更には是非とも複数税率対応システムの導入をご検討下さい。

Chapter 5 自社内でやる事_必要に応じて経理・仕入管理システムの改修

さて、自社内のインボイス様式を決定し、販売管理システムをどのように改修して運用して行くのか決まったら、次は経理システムと仕入システムの改修の検討です。

こちらが販売管理システムよりも後になっているのは、販売管理システムは対外的なもので、経理システムや仕入システムは社内の為のシステムだからです。販売管理システムがきちんとなっていなければ、得意先に多大な迷惑が掛かります。また販売管理システムは自社だけで一方的に決められるのではなく、得意先の意向を聞きながらそれに合わせていく必要がある為、真っ先に販売管理システムには取り組まねばなりません。

経理システムについては、これまで免税事業者など関係なく、一律に仕入税額控除されていましたが、今回税額控除できない仕入が発生する可能性もあり、システム改修が必要になります。詳細は顧問税理士の方にお問い合わせ下さい。

仕入システムは手書きなどで対応されている事業者の方も多いかと思いますが、今回のインボイス制度開始に合わせてシステム化をご検討いただきたいと思います。総論編③でもお話しましたが、取引先の中にはインボイス発行に不慣れな業者の方もいらっしゃり、端数処理の仕方や計算方法など法令に定められた事と異なる請求書をうっかり発行してしまう仕入先も出てくるかもしれません。何のチェックもせずにインボイスを受け取っていて、申告時に税務署から間違いを指摘されたら手間がかかります。日々仕入データを入力して、送られてきた請求書を事前にチェックできるシステムを構築しておくことで、そのリスクは軽減できますし、仕入明細書に仕入先の承認をもらって仕入のインボイスを自社で作成することも認められていますので、是非とも仕入システムの導入をご検討なさって下さい。

Chapter 6 自社内でやる事_適格請求書保存方式に係る社員研修の実施

必須なのが従業員教育です。経営者の方や経理関連の方だけがインボイス制度を理解していたら充分という訳ではありません。アルバイトやパートの方も含めてすべての方が理解しておく必要があります。

仕入担当の方も、仕入先の計上してくる各品目単位の税率と消費税計算、端数処理の妥当性が正しいかどうかチェックしなければなりません。その際、正しい知識を持ってチェックするのとそうでないのとでは、その時の処理時間に差が生じるのは当然ですが、後日の手間が大変となり、最終的に税務署から修正の指摘を受けたり、取引先に迷惑をかけてしまったりという大変な事態に発展しないとも限りません。

何度も申し上げておりますが、本来事業者には直接、売上や利益に関係ない制度の事務処理にもかかわらず、これにより、生産性が著しく低下したり、顧客との信頼関係が揺るぐことがあってはならないのです。

従業員教育を徹底した後、制度開始後は一定期間、朝礼や夕礼、定期ミーティングの場などで、実際に起こった事象や判断に困った事、顧客や取引先から質問された事などを、社員全員で共有して、よりスムースな対応ができるように、社内で徹底して頂きたいと思います。

実務編②のまとめ

  1. インボイス対応で行わなければならないことは山のようにある
    2023年10月まで時間があると思わずすぐに取り組むべきである
  2. 現在免税事業者でも簡易課税事業者でも、課税事業者となって適格請求書発行登録業者になった方が長期的に見て得策である
  3. 登録が終わり認可されたらできるだけ早く、全ての取引先に登録番号の通知を送るべきである
  4. 通知の意味は、取引先への安心感の提供と取引先に登録業者になってもらうようプレッシャーをかけること
  5. インボイス対応をきっかけに社内の販売管理システム特に消費税転嫁方法を見直した方が良い
  6. 最大手の得意先のインボイス様式を固め、それを自社のインボイスのひな型として軸にし、他の得意先にはできるだけその軸に合わせてもらうようにする
  7. 標準税率の商品しか取り扱っていなくても、今回のインボイス対応を機に複数税率対応の販売管理システムに変更した方が、将来の変化に対応しやすく経営戦略にも制約が少なくなる
  8. 経営者や経理関連の方だけでなくパートも含めた社員全員にインボイス制度の教育をすべきである

いかがでしょうか?

今回は、具体的にやらなければならない事の中で、まず自社で取り組むべき事を中心にお話しました。

2023年10月までまだまだ時間があると思っておられたら、直前になって多くの課題が見つかり大慌てをするようになるかもしれません。やるべきことはたくさんあります。今日から準備を始められても決して早すぎる事はありませんので早急にスタートしてください。

次回は実務編③として、具体的にやらなければならない事のうち取引先関連の事についてお話させて頂きます。

どうぞご期待ください。

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