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労働時間の把握義務化で事業主が勘違いをしているポイントは?

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執筆者:ドリームサポート社会保険労務士法人 CSO 特定社会保険労務士 竹内潤也

労働基準法の改正による、時間外労働・休日労働の上限規制は大きな話題となり注目を集めましたが、労務管理においては、労働安全衛生法に基づく面接指導のための労働時間の把握も、過重労働対策の一環として同じように重要です。しかし、労働基準法に基づく労働時間管理を行っているから、その枠組みで大丈夫、と思われているケースが散見されます。

労働基準法による労働時間の把握とは

質問です。

問1:労働時間の把握をしていますか?
問2:管理監督者や裁量労働制で働く労働者の労働時間を把握していますか?
問3:労働安全衛生法に基づく面接指導のための労働時間を把握していますか?

時間外労働・休日労働の上限規制が導入されたことにより、労働時間の把握の重要性も一段と増し、各企業において取り組みも進んでいることと思います。それによって、上記の問1には、Yesと即答されるでしょう。

ところが、問2となると、労働基準法上管理監督者は、労働時間・休憩・休日の規制から外されており上限規制の対象でもないことから労働時間の把握は不要では? 裁量労働制ではみなした時間を集計できていればよいのでは? と思われるかもしれません。また、問3は、問1の労働時間の把握ができていれば、それで足りるのでは? という疑問が浮かぶかもしれません。

ポイント① 管理監督者や裁量労働制の労働者であっても労働時間の把握が必要

管理監督者や裁量労働制など、労働基準法では例外的に扱われる労働者についても、労働安全衛生法では例外とはされていないため、労働時間の把握をしなければなりません。

ポイント② 労働安全衛生法独自の算定方法で労働時間数の計算が必要

労働安全衛生法でいう、時間外労働・休日労働の時間数の算定は、労働基準法のそれとは異なります。このズレを認識し、正しい算定ができていないといけません。

法令ではこう書かれている

まず、労働安全衛生法では、事業者に一定の労働者に対する面接指導を義務付けています。「一定の労働者」が誰であるかを労働安全衛生法施行規則で定めています。

労働安全衛生法
第六十六条の八 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。(一部、略)

労働安全衛生法
第五十二条の二 法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり八十時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。(一部、略)
2 前項の超えた時間の算定は、毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならない。

つまり、事業者は、1.毎月1回以上、定期的に労働時間の把握をし、2.週あたり40時間を超えている時間の月の合計が80時間を超えているどうかを確認し、3.疲労の蓄積が認められれば、面接指導を行わなければならないことになります。

整理(ポイント①に関して):労働者の例外規定はない

見ていただいたように法令には、労働者の例外は書かれていません。よって、管理監督者や裁量労働制の労働者であっても、この取り扱いを行わなければなりません(研究開発業務に従事する労働者・高度プロフェッショナル制度による労働者については別に規定がありますが、ここでは省略します)。

整理(ポイント②に関して):労働時間数の算定の仕方が違う

「休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり八十時間を超え」ているかどうかを確認しなければなりません。
パンフレット等では、簡単に「時間外労働・休日労働が月に80時間を超えているかどうか」と書かれているケースもありますが、正確にはこうです。

実務上、どう取り扱うかは次のように示されています。
【1ヵ月の総労働時間数―(計算期間1ヵ月間の総暦日数÷7)×40】
※総労働時間には、労働基準法でいう、時間外労働時間・休日労働時間数も含めます。

3種類の労働時間の算定が必要

旧来、労務管理の実務上では、労働時間数の算定の目的は、割増賃金の支払いのためでした。極端に言えば、正確に残業時間等が把握できていなくても、それを確実に上回る割増賃金が支払われていれば、問題ありませんでした。また、法的には休日労働にあたらない、所定休日の労働もまとめて休日労働時間数と計算して、35%割増しで支払っていれば問題ありません。

ここに、法改正による上限規制が加わり、正確に、法定労働時間を超える時間外労働時間数と法定休日での休日労働時間数を算定しなければならず、これによって、法定休日の労働か所定休日の労働かも分けて集計しなければならなくなりました。

その上で、今回ポイント②でご紹介した労働安全衛生法による算定も必要になります。

例えば、30日の月で、所定労働日数が22日、1日の所定労働時間が8時間という事業場で、毎日、3時間の時間外労働があった場合は次のようになります。

労働基準法の上限規制対策での時間外労働:66時間=3時間×22日
労働安全衛生法の面接指導のための週あたり40時間超の時間:70.57時間≒242時間-(30/7)×40
※242時間=(8時間+3時間)×22日

ここに、祝日による所定休日がある場合や、所定休日・法定休日の労働があった場合などには、さらに数字が異なってきます。

労働時間の把握の方法とは

労働基準法の上限規制導入に合わせて示された厚生労働省のガイドラインでも一定の水準以上の算定の方法が求められましたが、労働安全衛生法では、さらに厳密に、しかも法令上に書かれています。

労働安全衛生法
第六十六条の八の三 事業者は、面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。(一部、略)

労働安全衛生法施行規則
第五十二条の七の三 法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

「客観的な方法」と例示まで挙げられています。自己申告等の方法の余地も残ってはいるものの、それが認められるのはかなり限定的であり、労働基準法によるガイドラインでは上位に書かれていた上司等による「現認」もここでは例示されていません。現実の労働基準監督署による指導も、PCのログなど客観的なデータを重視するようになってきていますので、対策しておくことをお勧めします。特に勤怠管理システムを使えば、打刻した労働時間の集計がスムーズになるだけではなく、全ての従業員別に総労働時間はもちろん、時間外労働時間や休日労働時間など詳細の時間管理も可能になります。

助成金や補助金の申請に際しても必要!

労働時間は、このような直接の労務管理上だけではなく、助成金や補助金の申請に際しても、生産性要件を図るためであったり、平均賃金の算定のためであったりと、手続きに必要なデータの一つとされる場面が増えています。コロナ禍で話題となった雇用調整助成金も、労働時間の把握がずさんであったために、過去にさかのぼって労働時間を精査しなければならず、その煩雑さから、過去分については申請を断念したというようなケースもありました。

このような状況でも勤怠管理システムを利用している場合、過去のデータの有効活用、集計作業の円滑化が期待できます。普段から正確な労働時間の把握があれば、このような場面でも時機を逸することなく助成金や補助金の申請にあたれますので、メリットのひとつと言えるでしょう。

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